ソフト食を常食に近い見た目に~試行錯誤で完成させたすずしろ式ソフト食を導入して~

はじめに

今度栄縁でソフト食の料理教室を企画していますが、この講師として是非!とお願いしたのが、障害者支援施設すずしろの里の管理栄養士、井上彩さま。

実は井上様、以前栄縁に興味を持ってくださり直接連絡をくださいました。

お話しをお聞きすると、とっても素晴らしい!! 是非この技術・知識を広く伝えられる場ができないか、県民の皆さまに身近にソフト食を感じてほしい!と思い今回の料理教室を企画させていただきました。

そこで井上様の管理栄養士としての働き方、ソフト食に至った経緯などについて記事を書いていただきましたので、ソフト食を知らない方、同業者の方、最近ムセが気になるという方・そのご家族の方なども是非お読みくださいね。

すずしろ式ソフト食

障害者施設と一言で言っても様々な種類がありますが、当施設では18歳以上の知的・身体・精神障害や難病患者の方々などが生活しています。

入所定員は50名ですが、直営の厨房で調理員6人が3~5名体制で調理を行っています。

このような手厚い人員配置で調理を行っていることの理由の一つに、当施設では、キザミ食やミキサー食に代わる新しい食事の形として『黒田留美子式高齢者ソフト食®』と『凍結含浸法』の2種類の手法を組み合わせて4つの形態に分類し、すずしろ式ソフト食として提供していることが挙げられます。

これらを組み合わせることで日常食はもちろん、行事食のようなハレの日の食事がキザミ食ではなく、常食と遜色ない出来栄えとなり、入所者の方だけでなく職員や調理員にも喜ばれています。

黒田留美子式高齢者ソフト食®の導入により、摂食嚥下リハビリテーション学会分類3相当の食事が作れるようになり、左側のようなキザミ食から右のようなかたちカタチある食事の提供が可能になりました。

更に凍結含浸法を導入したことで、ミキサー食も形あるものに変更できるように。

これらを黒田式に合わせることで、キザミ食対象者はより豊かな行事食へと変化。 

摂食嚥下リハビリテーション学会分類  
0j=⓪  1j=①  2-2=②  3=数字なし

摂食嚥下障害の食事の難しさ

障害者の食事の難しいところは、摂食嚥下障害の成り立ちが全く違うところにあり、例えば高齢者の場合、加齢によって徐々に筋力低下や機能の低下により食塊形成や嚥下が困難になっていくのに対し、重度心身障害の場合には、先天的に摂食・嚥下といった機能が脳に備わっていない場合が多いため、適切な食事形態を提供することや食事形態の段階を上げる見極めには多職種の連携が欠かせません

また、脳血管疾患による麻痺性の嚥下障害では、体表面の麻痺と口腔・咽頭の麻痺がイコールでない場合もあり、片麻痺があるからと一概に嚥下障害に括っては、本当は食べられるはずの食事を奪い、使えるはずの機能を失わせてしまう恐れがあることから、医療機関との連携はもちろん、日頃の見守りと観察の積み重ねも大切です。

難病で徐々に筋力や機能が失われていく患者さんにとって、元気だった頃に食べられていた食事がキザミ食やミキサー食に代わっていくことは、生きる希望を失っていくことに拍車をかけかねません。

そしてそれは、事故などで中途障害を負った方々にも言えることです。

形のある食事を

すずしろ式ソフト食では、常食に近い見た目で提供できることから、自分が食べているものを認識することができ、食事を楽しむことはもちろん、食欲増進によるサルコペニア・フレイルの予防にも大きく役立ちます

実際に、中途障害により病院でキザミ食だった方が、当施設に入所して最初の食事ですずしろ式ソフト食を召し上がった際には

「ぐちゃぐちゃになっていないメシを食ったのはいつぶりだろう」

と笑顔で完食して下さったことは、

食事を守ることは人としての尊厳を守ることだ

と、職員一同、胸が熱くなる思いでした。

管理栄養士の主な業務内容は、皆様と同様に給食管理業務と栄養管理業務ですが、当施設における特徴的かつ最も多くの時間を割いているのが食事観察です。

STのいない施設において、食事形態を決めるということは容易ではありません。

幸いなことに当施設の理事長は耳鼻咽喉科医である為、VE(嚥下内視鏡検査)を行って食事区分を決める場合もありますが、それ以外にも看護部や介護部と相談しながら、テーブルの高さや食事姿勢、カトラリーの大きさや食事介助の際の一口量など様々なことを決めていきます。時には、頸部聴診で嚥下音を確認しながらトロミ濃度や食事形態を決めることもあります。

そして、その決め事に則って食事介助がなされているか、食事摂取量が増えているかの観察や、咀嚼回数や嚥下の様子、むせ込みの有無などにより食事形態の変更時期の見極めを行うために私も食事介助をさせて頂くこともあるので、毎日昼・夕食事のミールラウンドはとても大切な時間となっています。

すずしろの里の魅力

堅い話が続きましたので、ここで私から見たすずしろの里の魅力を2つご紹介したいと思います。

1つ目は、素晴らしい景色です。

当施設の庭園は、新国立競技場の外観設計を担当され、イギリスの庭園コンクールで何度も優勝経験がある石原和幸さんのデザインによるもので、入所者の方々の日常に花を添えるように車椅子の目線で花々を楽しめるよう設計されています。

また、庭園から見える錦江湾は絶景で、気候の良い季節には、入所者の方々もお庭でのランチタイムやカフェを楽しんでいらっしゃいます。

2つ目は、職員の仲の良さです。

私が入職して一番驚いたことは、職員みんなが優しいということでした。入所者の方々への個々の対応はもちろん、他職員に対しての声掛けも優しいんです!

些細なことで言えば、仕事を頼む側の「お願いします」の声掛けに、受ける側の職員が「ありがとうございます」とお礼を言ってくれるのです。

そう言ってもらえると、頼む側の申し訳なさが軽減されますし、次に自分が頼まれた時にも恩返しだと思って嫌な気にもならずに「ありがとうございます」とまた感謝の言葉を繋ぐことができる素敵な習慣だと思い、私も積極的に実践しています。

こういった優しさが繋いだご縁が、休みの日に職員同士で釣りに行ったり、ゴルフに行ったりと、職場の同僚から友達へと関係性が発展したり、自分の家族(妻、娘、義息子等)を職場に誘って夫婦や家族で働いたりと、どんどん広がり続けていることが、自分の職場ながらとても嬉しいのです。

 優しさを持ち続けるには、気持ちに余裕が必要だという考えの基、すずしろの里ではどの部署でも定数以上の余裕のある人員確保を目指しています。

ご縁があれば…

私達と一緒に働いて下さる栄養士・管理栄養士はもちろん、ST、PT、OTといったリハビリ専門職の方々、介護職、看護師、調理員まで多岐にわたっていつでも歓迎いたしますので、ご興味のあられる方はぜひ一度、お問い合わせ頂けたら嬉しいです。(TEL:0994-22-1223)

また、すずしろ式ソフト食にご興味のあられる方々の研修・視察の受け入れも行っております。

ソフト食に必要な機材、作り方、試食などご要望は相談に応じますので、こちらも気兼ねなくお問い合わせください。(電話番号同じ。管理栄養士・井上まで)

いつか皆様とご縁が結ばれる日を心待ちにしております。

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