お彼岸と食

もうすぐお彼岸です。

お彼岸の日程は、春分の日と秋分の日それぞれを中日として、その前後3日間を含んだ1週間。

2022年は3/18~3/24

ご先祖さまを偲ぶ年中行事であるとともに、自らの行いを振り返り自分の人生について考えるタイミングでもあります。お彼岸にすることは、主にお墓参りと家族が集まって食事を共にすることです。

そこで、お彼岸にまつわる食について掘り下げてみましょう。

お彼岸とは

故人を偲ぶ日本独自の文化

お彼岸は仏教と深く関係する行事ですが、仏教発祥の地インドや中国にはまったくみられない日本独特の文化です。仏教では、彼岸を彼の岸(かのきし)と呼び、悟りの境地を意味します。苦しみに満ちている現世を表す此の岸(このきし)と対になるのが彼の岸です。彼岸中に仏道修行に励み功徳を積むことと、ご先祖さまを敬い、偲ぶ慣習が合わさって現在のお彼岸になったといわれています。

お墓参りをする

お墓参りの意義は、死を見つめて自分の人生について考えることです。故人の人生や個人との思い出を振り返ることが自らの死について考えるきっかけになります。お墓参りでは、ご挨拶、墓石と周辺の掃除、お供え、お線香をあげることが一般的です。普段は忙しくてお墓参りに行けないとしても、お彼岸に合わせてご先祖さまを供養するようにしたいものです。

お彼岸に食べるものとそのいわれ

お彼岸に食べる特別な食べ物として知られているのは

ぼたもちとおはぎです。

今回は、ぼたもちとおはぎの違い、団子や精進料理をお彼岸に食べる理由、精進料理に込められた願いについてご紹介します。

ぼたもちとおはぎ

ぼたもちとおはぎの違いは3つあります。

  • 名前
  • 大きさ
  • 使うあんこの種類

春の彼岸では牡丹の花にちなんでぼたもち

秋の彼岸では萩の花にちなんでおはぎ

と呼ばれます。

ぼたもちは牡丹のように大きく華やかに作られ、おはぎは萩の小さな花を粒あんに見立てます。ぼたもちとおはぎはいずれも餅をあんこで包んだお菓子ですが、

ぼたもちはこしあん、おはぎは粒あんを使います。

これは、小豆を収穫してすぐの秋の彼岸では粒あん収穫から時間が経ち皮が固くなる春の彼岸では皮を取り除いたこしあんを使っていたことに由来します。

ちなみに、日本では古来より赤い小豆に魔を祓う力が宿ると考えられていたので、ぼたもちとおはぎには魔除けの意味も込められています。

団子

もちは神事に、団子は仏事で食べられる機会が多い食べ物です。

諸々の病や厄を払うことを願って供えられたり食べらたりします。お彼岸で食べられる団子には、ご先祖さまへの敬意と感謝の気持ちが込められています。

精進料理|一汁三菜が基本

現在のお彼岸中の食事は、仏膳が精進料理で家族の食事は普段と変わらない場合が多いです。しかし、数十年前までは家族も仏膳と同じ精進料理を食べる家庭ばかりだったようです。

お彼岸に食べる伝統的な精進料理のいわれについてみてみましょう。献立構成は一汁三菜が基本ですが、状況や目的に合わせて一菜から七菜、一汁から三汁程度までおかずと汁物の数を変えることができます。

<主食|ご飯、赤飯、麦ご飯など>

米は日本人にとって最も重要な食品です。主食としてエネルギー摂取量を確保するだけでなく、感謝の気持ちを表すために神事や仏事で供える食べ物としても欠かせません。お彼岸に食べる精進料理では、白ごはんだけでなく、タケノコなどを使った旬の混ぜご飯をいただくのもおすすめです。

<汁|味噌汁、すまし汁など>

精進料理の汁物で代表的なのは建長汁(けんちんじる)です。

こんにゃく、ゴボウなどの根菜、里いもをごま油で炒め、崩した豆腐、野菜や昆布、椎茸からとった精進出汁と味噌あるいは醤油を合わせます。食うに困らない現在の豊かさとご先祖さまへの感謝を忘れず美味しく汁を飲みましょう。

<主菜|煮物、炒め物、焼き物、揚げ物など>

季節の野菜、山菜、きのこを合わせて作る煮物や炒め物、焼き物、天ぷらなどの揚げ物がメインのおかずになります。精進料理には制約が多いため、肉や魚の味わいに似せたもどき料理が発達しました。その代表はがんもどきです。大豆、豆腐や湯葉などの大豆加工品、お麩からタンパク質が摂れるので満足感が得られる献立に仕上がります。

<副菜|香の物、おひたし、和え物、酢の物など>

精進料理や和食で食べられる漬物は香の物と呼ばれており、素材の新鮮な食感や味わいからお新香とも呼ばれます。たくあんや梅干し、柴漬けなどがあります。精進料理を食べ終わる際、飯碗にお茶や湯を注ぎ、残った米粒を香の物で拭う作法があります。

食べ物を大切にする気持ちを忘れないためにも香の物と食事終わりの作法を大事にしたいものです。

寿司

地域によっては、以前からいなり寿司や巻き寿司、ちらし寿司、魚寿司など郷土の寿司をお彼岸に食べることがあったようです。現在では、にぎり寿司をお彼岸に食べる家庭も多く、寿司は年中行事との相性が良いと改めてわかりました。

ハレの日の食事と言えば寿司という印象も浸透しており、老若男女に好まれる味なので、家族みんなが楽しめる料理としておすすめです。

まとめ

お彼岸の目的は、ご先祖さまに感謝の気持ちを表し、自分の生き方を振り返ることです。そのきっかけとして、ぼたもちやおはぎ、お団子や精進料理を家族と一緒に食べてみてはいかがでしょうか。

参考資料

  • 米の加工品 おはぎ・ぼたもちの地域を基盤とした食文化の伝承 掲載誌:桐生大学紀要 第28号 著 者:橋本まさ子
  • 行事食および儀礼食に関する実態と意識について : 若い世代の赤飯・寿司・精進料理の摂取状況 (温故 知新プロジェクト) 掲載誌:東京家政大学生活科学研究所研究報告 著者:宇和川小百合 色川木綿子
  • 石川県における行事食と調理文化に関する研究(第1報) 掲載誌:北陸学院大学・北陸学院大学短期大学部研究紀要 著者:中村喜代美 新澤祥恵 川村昭子
  • 米粉料理の食文化 掲載誌:東京家政大学研究紀要1人文社会科学 著者:土屋京子 加藤和子
  • 日本料理における精進料理について 掲載誌:日本調理科学会誌 著者:柳原尚之

著者プロフィール

broccolin

好きな食べ物はブロッコリーで、つぶつぶより茎が好き。管理栄養士としての目標は「病気になる人を減らし、健康な人を増す」。

管理栄養士免許を取得後、大学院へ進学。現在は循環器、特に高血圧をメインとした生活習慣病予防の研究を行っている。

研究の傍ら、ライターとして食関連の記事を執筆中。世界中の人々のヘルスリテラシー向上を目指し、根拠に基づいた情報を分かりやすく伝えるよう尽力している。

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